大豆田とわ子と三人の元夫 第4話


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大豆田とわ子と三人の元夫に夢中である。

坂元さんの脚本というのははっきり言って癖があるし、その癖が苦手な人がいても納得できる。あの無駄に重い雰囲気、臭いセリフ、ちょいポエミーな言い回し、人間ってそんなこと急に言い出す?という疑問も湧くのだが、なんだかんだ言ってほとんど追いかけてしまっている私は結局のところ半、信者かもしれない。

 

特に松たか子との相性の良さと言ったら無い。カルテットというドラマはメンバー4人ともべらぼうに演技が上手かったからあんまりわからなかったけど、あれは松さんの顔変化を楽しむドラマだったんだなと後から気が付いた。

 

一番カルテットで刺さった演技は、満島ひかり演じるすずめちゃんと、吉岡里帆演じるアリスちゃんが揉み合ってテレコが落下し、盗聴がバレるシーンだ。

 

盗聴されていた、驚きと悲しみ。そこからの理由を察するまでの表情の変化。松さんはおそらくあの時、他の誰も成しえない演技をしていた。さらに言うと、褒めすぎかもしれないが、坂元裕二のクセある脚本が、臭いセリフが、松さんの人柄でしっかり説得力を持って不自然さを消しているとさえ思う。

 

大豆田とわ子に関しては、私は個人的にカルテットの10倍好きだと思う。

坂元裕二の脚本から、重さを引いて、素晴らしい加減のユーモアが加算されていて。初めて見たときはビビった。クオリティの高さに。そして2話目をみたときはいい意味で鳥肌が立った。このドラマは隔週でエンディングの歌い手と映像を作り変えているらしい・・・どれだけ手をかけているのか。

 

ただそれはどれも表面的なことではあったのだが昨日放送された第4話で、とわ子の友人の綿来かごめのことが掘り下げられて一気に深いとことまで刺されてしまった。簡単に言うとこのドラマを見ていて初めて涙が流れた。

 

琴線に触れたのは最後の方。脚本の坂元さんの言いたいことが伝わってきたから。そこに触れてくれる心意気と、「拾い上げてくれる」繊細さに大粒の涙がこぼれた。

 

かごめは漫画家を目指すという。

賛同し手伝いたいというとわ子に対し、「これは私のソロプロジェクト」と断る。

かごめの「あなたは社長ができている、私とは違う」という主張に対し「でも私だってツライよ」というとわ子。「ツライ」という一言は本当に、本当によくわかる。社会に出て働き続けている人々はみなとても自分が「楽しくよくできている」とは思っていない。日々つらい。いやなことばかりで正直ギリギリ。とわ子の辛さはここまでの3話分で視聴者に伝わっている。

かごめはそれでもなお言う。「でもできてる。それはとてもすごいことだよ。いるといないじゃ大違い。あなたがいるだけで、小さい女の子が私も社長ができるかもってイメージができるんだよ」

 

ここ最近のドラマでは珍しく「勝ち組」ポジの「女社長」を主演に設置した疑問が解ける瞬間である。このコロナ禍、皆が本来手にできていたものよりも我慢して生きている。そんな中で、かなり共感の得づらい「社長」、「おんな社長」の主役。坂元さんはイメージしてほしいのだ。これだってあり得ることだと。望める、楽しい日々だと。そして疲れて帰ってきた人に対して、長い連休を終えて会社に行くのが嫌でたまらない人に対して、これまでのドラマでやりがちだった「重たい描写」はガッツリ省く。暗くしない。とわ子の抱くかごめへの友情という器の中で、かごめの告白は続く。

 

「五条さんのことは残念だったと思うよ。でもね、恋愛がいらない。それがとことん自分なんだよ」

このシーンを見て涙した人は多いと思う。「皆が普通にできることができない、ピンとこない」そんなかごめと同じような感覚を抱きながら生きている人は皆泣いたのでは。

私の友人にも、恋愛がピンと来なくて若い時期は戸惑いながら婚活をしたりして苦しんでいた人がいる。今は淡々と独身生活を送っているが、10年前の苦しさと言ったら無かったと思う。

 

まわりに理解されにくいことを実践しながら生きていくというのは、つらい。でも、無理をしてそこを我慢して取り繕ったら死にたいほどもっとツライ。だからそう、「それがとことん自分なんだよ」と表現するのが非常にわかるし、わかってくれてありがとうと思うのだ。

 

数か月前に評判になった光浦靖子さんのエッセイにも、「人が当たり前にできることができない人生だった」という内容があったと思う。あのエッセイがあれだけ人の心を打ったのは、多様性が認められつつある中「私のこの感覚はどうなの?」とモヤモヤを抱きながら生きてきた人の心にフィットしたからだろう。この人々のことを10年前なら世間は「不器用」、「負け犬」と表現していた。

 

その評価っておかしくない?

こんなに魅力的なイチ人間なのですが?

ということを坂元さんは「かごめ」を通してまざまざと見せつけてくる。

そんなことを表現してくれる作品が今までなかったから、びっくりしてたくさん泣いてしまったのだよ。